削った先で出会えた景色

2026.07.23

このソメイヨシノは、実はずっと前から手元にありました。

ただ、一つだけ気になっていたことがあります。

材の一部が朽ちていたことです。

器として使うには避けた方がいいのか、それとも活かせるのか。

答えが出ないまま、長い間その材には手を付けられずにいました。

そんな中、この材を使ったオーダーをいただきました。

お客様にも朽ちた部分を活かす可能性をご理解いただき、ようやく最初の一歩を踏み出すことができました。

正直に言えば、完成形は見えていませんでした。

けれど、削り進めるたびに「この先には、まだ見えていない景色があるかもしれない。」そんな感覚だけはありました。

そして現れたのが、この表情です。

朽ちた跡に染み込んだレジンは木目に深みを与え、メタリックピンクはソメイヨシノの柔らかな印象に、少しだけ力強さを添えてくれました。

最後は二液ウレタンによるハイグロス仕上げ。

光を受けるたび、木とレジンの表情は少しずつ変わります。

この作品を作って改めて感じたのは、素材には、最初から答えがあるとは限らないということです。

削ってみなければ分からない景色があります。

だから私は、完成形を決めて削るのではなく、素材と向き合いながら、その先にある可能性を探し続けたいと思っています。

今回の一杯は、そんな時間の中で出会えた作品です。

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