このソメイヨシノは、実はずっと前から手元にありました。
ただ、一つだけ気になっていたことがあります。
材の一部が朽ちていたことです。
器として使うには避けた方がいいのか、それとも活かせるのか。
答えが出ないまま、長い間その材には手を付けられずにいました。
そんな中、この材を使ったオーダーをいただきました。
お客様にも朽ちた部分を活かす可能性をご理解いただき、ようやく最初の一歩を踏み出すことができました。
正直に言えば、完成形は見えていませんでした。
けれど、削り進めるたびに「この先には、まだ見えていない景色があるかもしれない。」そんな感覚だけはありました。
そして現れたのが、この表情です。
朽ちた跡に染み込んだレジンは木目に深みを与え、メタリックピンクはソメイヨシノの柔らかな印象に、少しだけ力強さを添えてくれました。
最後は二液ウレタンによるハイグロス仕上げ。
光を受けるたび、木とレジンの表情は少しずつ変わります。
この作品を作って改めて感じたのは、素材には、最初から答えがあるとは限らないということです。
削ってみなければ分からない景色があります。
だから私は、完成形を決めて削るのではなく、素材と向き合いながら、その先にある可能性を探し続けたいと思っています。
今回の一杯は、そんな時間の中で出会えた作品です。



