桜の器は、なぜ手に取られるのか ― ソメイヨシノという木のこと

2026.09.01

桜の器は、なぜ手に取られるのか ― ソメイヨシノという木のこと

 

マルシェに器を並べていると、桜の器の前で足が止まる方が多くいらっしゃいます。今年5月のお城下マルシェ(松山市花園町)では、ソメイヨシノを使った作品が完売しました。数ある樹種の中で、なぜ桜なのか。作り手の側から、この木のことを少し書いてみます。

「桜の木」と「桜の材」は、同じものではない

まず、意外と知られていないことから。

木材市場で「桜(サクラ材)」として流通しているものの多くは、ヤマザクラをはじめとする山に生える桜です。家具材や床材として広く使われ、木目が緻密で狂いが少なく、道具材としての評価が高い樹種です。

一方、私たちが「桜」と聞いて思い浮かべるソメイヨシノは、公園や川沿い、学校や街路に植えられた樹です。観賞のために植えられた木ですから、伐採されても製材ラインには乗りません。倒木や剪定、更新のために伐られたものを、その場で引き取る。ソメイヨシノを木工の材として扱うというのは、そういう入り方をした木を使うということです。

だから、寸法も形も選べません。太さも、癖も、割れの入り方も、その一本が持っていたものをそのまま受け取ることになります。

削ってみると分かる、桜という木の性格

桜材は、広葉樹の中では中庸の硬さです。極端に硬いケヤキやカリンほど刃を選ばず、かといってホオやイチョウのように柔らかくもない。木の組織が細かく均質なので、刃物がすっと通り、削り上がりの面がきれいに出ます。木工旋盤で挽いていて、素直だと感じる木のひとつです。

見た目では、心材と辺材の色の差がはっきり出ます。中心側の赤褐色と、外側の白っぽい部分。木口を見ると、その境目が一目で分かります。加えて、桜特有の黒い筋(ガム、樹脂の跡)が入ることがあります。これを欠点と見るか、その木が生きていた証と見るかは、作り手の判断です。ESIIWでは、消すのではなく活かす方を選んでいます。

そしてもうひとつ、桜は経年で色が変わります。使い込むほど赤みが深まり、落ち着いた飴色に近づいていく。買った日が一番きれいな木ではなく、これから育っていく木だということです。

木の性能だけでは説明がつかないこと

ここまでは、木材としての話です。ただ、桜の器が手に取られる理由は、それだけではないと感じています。

日本で暮らしていると、桜は毎年必ず巡ってきます。入学、卒業、転勤、送別。人生の節目に、たまたま桜が咲いていた、という記憶を多くの人が持っています。桜の器を手にした方が話してくださるのは、木目や手触りのことより、そういう記憶であることが少なくありません。

マルシェでお客様と話していても、選ぶ決め手として挙がるのは「手仕事の質感」や「一点物であること」が中心です。用途も、飾るためではなく日常で使うためという方が多くいらっしゃいます。特別なものとして棚に置くのではなく、毎日の食卓に置いて、少しずつ育てていく。桜という木の性質と、そういう使われ方は、よく合っているように思います。

一点ずつしか作れない、という前提

ソメイヨシノを使う以上、同じものは作れません。材の由来が一本ごとに違い、色の出方も、割れの入り方も、木目の流れも違います。標準品として何十個も揃えるという作り方は、この材ではそもそも成立しません。

不便な話ではあるのですが、その不便さがそのまま作品の価値になっているとも思っています。目の前のこの一点が、どの木のどの部分から来たものなのか。それを説明できることが、手仕事の器を選ぶ理由のひとつになるのだとしたら、この作り方を変える必要はないだろうと考えています。

実際に手に取っていただける機会

桜の器は、写真では伝わりにくい種類のものです。重さ、口当たり、木肌の細かさは、持ってみないと分かりません。9月から10月にかけて、松山市内で出店を予定しています。

  • 9月12日(土)・13日(日) つなぐ駅まちプロジェクト 開幕祭(JR松山駅西口駅前広場)
  • 9月20日(日) お城下マルシェ(花園町 10:00〜16:00)
  • 9月26日(土) 11:00〜17:00 / 27日(日) 10:30〜16:00 ええもんフェスティバル(堀之内 城山公園)
  • 10月3日(土)・4日(日) 松山アーツ&クラフツ(城山公園やすらぎ広場 10:00〜16:00)

木のことでも、作り方のことでも、お気軽に声をかけてください。


株式会社西森建設工房 / ESIIW(愛媛県松山市) 建築で出会った木と、伐られた木のつづきを、器やオブジェとして残しています。


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